特異な名称

上位蜃気楼を小樽ではどんな言いかた(通称など)をするの?

一般に知られているのは、『高島(の)おばけ』という言い方です。昔の文献には『高島』という地区名の字が違い『高嶋おばけ』とか『高しまおばけ』と表しているものがあります。

 

また、最近の新聞等では、『おばけ』とひらがなで表現されていることが多いようですが、『オバケ』や『ヲバケ』 とカタカナ表示や『高島お化け』と漢字を使って記載されているケースもあります。『蝦夷行程記』(1856)に書かれているように、『変化』という字を書いて、おばけと読ませている場合もあります。

 

この『おばけ』という言葉の由来だが、これは『おばけハマグリ』の『おばけ』からきているという説がある。 昔、中国で、蜃気楼(しんきろう)は、蜃気楼の『』、すなわち『大ハマグリ』が気(=粘液)を出して浮かび上がらせた楼閣(=高層のりっぱな建物)と考えられていて、その考えが日本に持ち込まれたからだ。


それに従えば、小樽(高島)で上位蜃気楼が発生することを、『高島のおばけハマグリが気を出したぞ』と呼んでいたかもしれない。それが時の経過とともに、短く略して『高島おばけ』と呼ぶようになったとしても不思議ではない。


さて、蜃気楼(しんきろう)には、大きく分けて上位下位の2種類があります。 しかし、小樽では、蜃気楼(しんきろう)という言葉は、普通、『上位蜃気楼』を指すことが多いようです。それから、『蝦夷行程記』では、上位蜃気楼を海市(かいし)と表現していますが、一般の小樽市民には この言葉は通じないでしょう。 


ついでに、季語として用いられている名称の他に、日本の各地の文献や地元の人々に伝わっている蜃気楼の名称には、『山市』、『海館』、『島遊び』、『ながふ』、『浜遊び』、『竜王の遊び』、『竜宮の城』、『蓬莱城』、『貝桜』、『狐楯』、『狐の森』、『空中楼』、『銚子盃』と呼ばれているものがあります。

 

ちなみに、時代はばらばらですが、世界には蜃気楼を『おばけ』や『化け物』、『妖怪』、あるいは『変化』と名づけていたところがあります。

 

たとえば、・スウェーデンの『海の化け物』(Sjo Synar)・ドイツの『海の妖怪』(Seegesicht)・イタリアのレッチェ地方で呼ばれる『変化(変形)』とか『オバケ』という意味のムタータ(Mutata)・古代ケルト人の『ファタ・モルガナ(モルガナのお化け)』(Fata Morgana)などです。これらは、『高島おばけ』という名前の付け方に近いものでしょう。

 

日本で蜃気楼を『おばけ』と名づけているところは、北海道以外にないようですが、世界的にみると似たようなものがあるのです。ただ、明治の哲学者で、妖怪博士といわれた井上円了氏は、『蜃気楼』を怪奇現象の1つ、仮怪(かかい)という分類に分け、科学的に説明のつくものとしてとらえています。

 

参考文献: 
『小樽新聞』(昭和6年2月5日) 
『蝦夷行程記』上 阿部喜任 著(1856)
『近世紀行文集成』(第一巻 蝦夷篇 / 板坂耀子編[葦書房])
『北海誌料』全 林顕三編(1902)---『北海紀行』(1874)の増訂版 
『小樽フォークロア12 第5話』 脇哲 著---『新北海道伝説考』の抜粋 
『蜃気楼の楽園』(ヘルムート・トリブッチ 渡辺正 訳 工作舎 2000)
『おばけは本当にいるの? 未知へのとびら』(岡島康治 PHP研究所 1999) 
『蜃気楼文明』(ヘルムート・トリブッチ 渡辺正 訳 工作舎 1989)

 

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